多血小板血漿(PRP)が効く変形性膝関節症患者の特徴(整形・災害外科62巻2019年より)
僕は多血小板血漿(PRP)はどのような変形性ひざ関節症(膝OA)患者さんに効いて、どのような患者さんには効かないのかを研究をして整形・災害外科という医学雑誌の2019年9号に掲載しました(戸田佳孝:多血小板血漿注射が効果的であった変形性膝関節症の特徴. 整・災外.62:1149-1151,2019)。
PRPはPlatelet-Rich Plasmaの略で、日本語で多血小板血漿です。患者さんの血液から血小板の中の傷を治す成分である成長因子だけを取り出して、研究室でその数を増やして、また患者さんの体にもどすという治療法です。
本題に入る前にPRPはなぜ関節の痛みに効くのでしょうか?飯尾先生らは腱が傷つくまでラットをぐるぐる回る輪の中で走らせて、人工的な腱損傷ラットを作りました。そして片方の肩の腱にはPRPを注射し、反対側の肩の腱にはPRPを注射しませんでした。その結果、PRPを注射した側では腱を作る土台となるコラーゲンの網の目がきれいにそろっていましたが、PRPを打たなかった肩の腱はぐちゃぐちゃだったそうです。
でもPRPを打っても軟骨がムクムクと生えてくるわけではありません。ファング先生の研究では、TGF-βからできるかさぶたで傷がふさがれるだけであり、すぐに剥がれてしまいます。つまり、PRPが造ったかさぶたで痛みを和らげている間に体を鍛えなければ、効果は長持ちしないのです。
戸田クリニックのPRPはセルソース社に依頼しています。血液を50CC採血して、セルソース社に送ると約3週間でフリーズドドライになって6CCのPRPが戻ってきます。これを生理食塩水に溶かして膝に注射します。セルソース社は、2019年の東京マラソンで8位になり、マラソングランドチャンピオンシップに出場する神野選手が所属している会社であり、信用できる会社です。セルソース社のPRPを使って、どんな患者さんに効くのかを調べてみました。
方法は56人の膝OA患者にPRPを2回注射し、12週間後の日常生活の困難さの改善率を評価しました。さらに年齢によって65歳以上(高齢者)と65歳未満に分け、痛くなってからの年数によって5年以上と5年未満に分け、体重を身長で2回割ったBMIによって25以上(肥満者)と25未満に分け、O脚の度合いを測る大腿脛骨角(FTA)によって180度以上と180度未満に分け、レントゲン写真の重症度によって分けるケルグレン・ローレンス分類の2度と3度もしくは4度に分けました。また週2回以上運動しており、持続時間が30分以上で、継続期間が1年以上である人を運動習慣あり、それ以外の人を運動習慣なし群に分けました。
臨床評価にはLequesne(リキーネと読みます)重症度指数の改善率を用いました。すなわち、就寝中、朝起床時、30分以上の立位、歩き始め、椅子からの立ちあがり、階段昇り、階段降り、しゃがみこみ、でこぼこ道の歩行、1kmの歩行での痛みの評価の合計点数です。改善率は12週間後の指数から治療前の指数を引き、その値を治療前の指数割り、その値に100をかけて求めました。すなわち、マイナスの値が大きいほど改善していることを表します。このようにして得た改善率をそれぞれの分類による2群の間で比較しました。
その結果、年齢、痛くなってからの年数、男性と女性の間、肥満のあるなし、ケルグレンローレンス分類の2度と3もしくは4度および大腿脛骨角によって分類された2つのグループの間の改善率に明白な差はありませんでした。「運動習慣あり」に分類された患者は運動習慣ありグループの改善率は運動習慣なしグループに比べて明白に優れていました。つまり、普段からよく運動している人ではPRPが良く効きました。
なぜ運動習慣のある人ではPRPは良く効くのでしょうか?アンズ博士らは20人の健常な人に最大目標心拍数の70%〜85%で20分間エアロバイクを漕ぐ前と後に血液検査を行い、PRPの成分の分析を行いました。その結果、エアロバイクを漕ぐ前に比べて、漕いだ後はPRPの容積や濃度が有意に増加し、造血幹細胞の濃度も有意に増加しました。つまり、運動習慣のある人の血液の中には元々PRPの質が高い可能性があり、このため、今回の研究では運動習慣あり群はなし群に比べて改善率が有意に良かったのではないかと考察しました。
戸田クリニックではPRPを実施すると決まれば、PRPの質を高めるような運動を指導します。運動習慣がない方でもご安心下さい。
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